外科医希望の医学生、研修医、外科医に興味のある方向け。
ブラックジャックやドクターXの大門未知子のように「私、失敗しないので!」というような外科医になりたいです。どういう意識やノウハウを持てば良いですか?教えてください。
こんなお悩みを解決します。
・本記事を読むことで
- 外科医をモチベを維持しながら、長く続けられる
- 外科勤務医として、重要なポストにつける
- 外科医として生きることを後悔しない
・本記事の信頼性
勤務医ブログ管理人 The 勤務医:外科医勤務医歴30年余り、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医、FACSを取得している。消化器外科の中でも、特に肝胆膵外科と腹腔鏡下手術が専門。
The 勤務医は35年間外科医を続けています。
その間いろいろありましたが、医師のプロフェッションとして外科医、消化器外科医を選んだことに後悔はしていません。
これまでの経験値を踏まえ、外科医を続けていくうえで大事なことを、時系列で8つのポイントから解説します。
目次
手術の基礎練習をする
まずは、外科医と言えば手術です。右も左もわからないところから、いきなり手洗いし、手術につくことになります。先輩から、「鈎(こう)を引け!」とげきを飛ばされ、何が起こっているのかわからないところからはじまります。
はじめのうちは、「早く終わらないかな~」と不肖な気持ちで、手術につくところから、外科医人生がスタートします。
そのうち、手術は基本的な手技の組み合わせで成り立つことがわかってきます。糸結び、持針器の運針、攝子(セッシ、ピンセットのこと)の持ち方、など。
そこで、糸結びをひたすら練習します。現在は、若手に「糸結びを8万回練習してきなさい」と言っています。
これには理由があって、米国に30代後半で留学して、肝移植の手術に入った時に、ボスから、「君の糸結びが遅いと、この手術は○○時間遅くなる。だから、8万回糸結びを練習してきなさい」と言われ、ちょっと、ムカッと来ましたが、実際3か月くらいかけてやったところ、さすがに糸結びが早くなりました。
糸結びをの練習をすることで、助手の立ち位置に余裕が出てきますし、先輩からは信頼をもらえます。
持針器の運針も同様で、自宅の座布団で、フォアハンド、バックハンドで、運針のリズム、間隔を練習することで、実践でも自信をもってできてきます。
腹腔鏡下手術の基礎練習はドライボックスでの、糸結び、針糸運針です。これをやらないと、そもそも腹腔鏡下手術はなにもできません。
オリジナルの手術書を作っていく
外科医となれば、手術記録を書く義務があります。公的文書として、カルテに残るわけです。
ただし、手術記録をシェーマ付きで書くだけでは不十分です。
ここでは、オリジナルの手術書を書いていくことをおすすめします。一般・消化器外科を例にあげます。
兵庫医科大学病院の上部消化管外科 主任教授 篠原 尚先生の「イラストレイテッド外科手術 膜の解剖からみた術式のポイント、第3版」がおすすめです。何がオススメかというと、この手術書自体に、自分で身につけた“コツ”を直接書いていくことです。
この手術書は新品を買ってください。なぜなら、外科医たる貴方のロードマップになるからです。
この本は、第1版から参考にしていますが、中国語と韓国語にも翻訳され、消化器外科領域の手術書として4万部発行と、ベストセラーとなっています。手術書でこれだけ出ているのは、なかなか見ません。
この本の作成の過程を、篠原教授から学会で拝聴しましたが、ものすごく時間と労力をかけています。
この本に、手術のコツ、ピットフォールを書き込んでいき、オリジナルの手術書を作っていきます。手術の度に参考にし、アップデートしていきます。
今でも、自分で書き込んだ手術のコツとピットフォールを埋め込んだこの手術書をよく見ています。
先輩の良いところを真似する
素人=初心者は、まず、真似をするところから始めます。外科医もそうです。
いきなり、手術ができるはずがありません。
もちろん、手術書や動画で予習をして、手術の基礎練習をして、患者さんのすべてを把握して、手術に臨みます。
最初は、助手です。そこで、オペレーター(術者)のしぐさを、しっかり見ておきます。同じようなシチュエーションが訪れます。その時も、術者のしぐさをしっかり見ておきます。
手術は、カンファレンスなどで予定された手術を、どれほどの時間で、どれほどの出血量で、術後経過がどうだったか、病理結果から見て手術の完璧度(しっかり癌が切除されたか?など)を総合評価して、術者のどこが良かったのか、(大体、総合力ですが)評価していきます。
そして、真似するのです。手術器具の使い方、術野展開の仕方、糸結びの仕方、剥離、医療デバイスの使い方、良いところはすべて真似するのです。
これが、外科技量向上の早道です。
外科医が10人いれば、全然やり方も違います。良い所どりをするのです。それを、自分に取り入れて、実践するのです。
そうすることで、外科医技量の見極めが益々出てきます。
そして、留学なり、他の土俵での手術見学や手術参加で、人のやり方を見て、良い所どりをするのです。
最終的には、名人の良い所どりをして、自分でオリジナリティを加味して、マイスタイルを築く、これが、外科医の手術スキル向上の王道です。
専門医を取っていく
外科医を道に選ぶとすると、専門医の取得はマストアイテムとなります。専門医は短期目標設定としても理にかなっています。
日本で外科医と称するためには、日本外科学会専門医が、まず初めの登竜門です。
普通に、外科修練施設で、外科修練をやって、申し込んで試験を受ければ普通に取れます。日本外科学会専門医取得が外科医人生の第1歩です。この専門医を取得する頃には、大体、サブスペシャリティが決まっています。例えば、消化器外科医とか、心臓血管外科医とか。
次に、The 勤務医の専門領域の消化器外科医で話を進めます。
消化器外科医の登竜門は、日本消化器外科学会専門医です。
これも、普通に消化器外科指定施設や関連施設で修練をやっていけば、大体、取れます。ただし、筆記試験が、結構重箱の隅をつつくような問題が出るので、その準備をしなければ落ちます。合格率は80%程です。
合格率80%は、モチベを持った消化器外科医が母集団となるので、結構覚悟が必要です。
この資格を取るのに必須の本が、日本消化器外科学会が監修している公式テキスト『消化器外科専門医の心得』です。消化器外科専門医の心得準拠『例題集』とあわせて、準備が必要です。
この二つの本は、日本消化器外科学会経由でないと新品は買えないようです。
日本消化器外科学会専門医を取得すると、大体、周りから消化器外科医として認められます。
The 勤務医は、ここから、日本外科学会の指導医、日本消化器外科学会の指導医、日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医、日本内視鏡外科学会の技術認定医を取得しました。
専門医の取得は、短期目標設定として、モチベを維持できます。さらに、その積み重ねが、外科医を続ける原動力にもなります。
外科系の教授を目指すときも、当然必要になりますし、市中病院で外科勤務医となる時も、あったほうが良いです。
最近、Fellow of the American College of Surgeons(FACS)を取得しました。
専門医のデメリットというか、日本での物足りなさもあります。
- 維持費がかかる
- 取得に見合った給与がでない
維持費が結構かかります。
日本は、国民皆保険で診療報酬制度で、一律、手術の点数(手術の値段のようなもの)が決まっているので、専門医のインセンティブを直接、医師の給与に反映することができません。
米国では、この専門医(いわゆるSurgical board)を取得すると、給与が一度に5倍くらい跳ね上がります。
研究をして医学博士を取る
リサーチをして、査読のあるインパクトファクター2以上の英語論文を、2つほど書き、医学博士(PhD)を取ることもおすすめします。
外科医を続けるのに、「何でPhDがおすすめなの?」と素朴な疑問があるかもしれません。
リサーチをすることで、アカデミックマインドが醸成され、外科医の技に、エビデンスや最新の知見が投入されやすくなるからです。また、第3者の評価も違ってきます。
私も、3年程リサーチをしました。英語論文を読みまくり、自力で英語論文を書き、国際学会へも行き、海外留学のきっかけともなりました。
博士号は、「足の裏の米粒」=「取っても食えないが、取らないと気持ち悪い」と言われたりもしますが、医学博士は、その取得過程と取得したのちのアクティビティに大きな影響を及ぼすと思っています。
リサーチのため、実臨床をしばし離れることは、長い外科人生でなんでもありません。
留学をする
留学、特に海外留学がおすすめです。その理由として、
- 世界のトップ施設の医学を肌感覚で学べる
- 外科医であれば、大御所の手技を肌感覚で学べる
- 英語力が向上する
- 世界から日本を見て、医療だけでなく政治・経済・文化のグローバルスタンダードとは?を再考できる
- 外国人医師やスタッフとフレンドリーに会話ができる
- 家族も一緒に行くと、レジャー含め新鮮な経験が満喫できる
- 他にもいろいろ
デメリットは、お金がかかる。(しかし、借金取りに追われるほどはない)
The 勤務医は、今までで、一番楽しかった時期が、米国留学1年間でした。
お金はなく、ドミニオンピザや1本60円くらいの地ビールを飲んだり、していましたが、非常に楽しかったです。
また、この時の経験が、その後の外科人生に大きく影響を及ぼしたことも、体感として確信しています。
学会・論文で人脈を築く
現在は、コロナ禍で現地開催の学会は、国内外ストップしていますが、やがて、再開されます。
学会は、外科医の人脈を築く良い機会です。同じ、セッションで発表したり、直接コミュニケーションをとったり、懇親会で飲みかわしながら話をしたりと。
国際学会も、世界の一流外科医の講演を直接聞けたり、話したりと、絶好の機会となります。
論文は、書いていると引用されたり、査読の依頼が来たり、国際学会で発表してほしいなどのオファーが来たりします。
※アメックスカードは国内外の学会参加で、重宝しています。
自分を評価できる第3者の仮想メンター外科医を作る
『自分を評価できる第3者の仮想メンター外科医を作る』???と思う方もいらっしゃるでしょう。
外科医は、常に訴訟と表裏一体の側面を持っています。外科医だけでなく医師はすべてです。
手術を受けた患者さんの多くは、
「ありがとうございました。先生のおかげで助かりました。」
「元気になりました。」
「お陰様で、絶好調です。」
など、有難い言葉を頂きます。
「有難う」といわれて、「給与というお金を頂ける」職業につけたことはよかったと思います。
その一方で、
すべての患者さんが上手くいくとは限りません。重篤な合併症で不幸な転機となる時もあります。
医師である限り、これは避けることができません。その場合、患者さんやご家族との関係は、概して悪化します。
時に、“訴訟”に至ることさえあります。
私は、手術にしても、処置にしても、あらゆる医業をするときは、常に、第3者の仮想メンター外科医を自分のそばに置き、フィードバックをするようにしています。
「自分は、患者さんの状態、疾患からエビデンスに基づいて、○○、△△の順に手術を、○○時間ほどでする。これで、間違いがないだろうか」と常に仮想のメンター外科医に問いかけるようにして、客観的に妥当な選択であるか?ということを常に意識しています。
こうすることで、明らかな過失(いわゆるミスのこと、ガーゼをお腹に置き忘れたとか)がない限りは、訴訟になることはありません。
また、弁護士法人の顧問医の立場でも、医療訴訟では過失か、合併症での不可抗力の結果なのかの判断は、客観的に行えるようにもなります。
仲間の外科医の中には、患者家族との軋轢や、訴訟で、外科医をやめた人もいますし、このストレスは厳しいものです。
まとめ
外科医を続けるために大事なこととして、経験値に基づいて、以下の8つの事柄を挙げてみました。
外科医を目指す、医学生、研修医、若手の外科医の方の参考になれば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。